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変革を任せる相手を、役職で選んでいないか

新田 光勇
新田 光勇
2026.06.01

中期経営計画が変わった。事業ポートフォリオの組み替えも決まった。社長メッセージも力強い。

でも、その翌週、組織図を見て「あれ、何も変わってないな」と感じたこと、ありませんか。
ぼくは、これをけっこう見てきました。

▼戦略は変わったのに、組織はそのままという違和感

戦略が変わるというのは、本来とても大きな出来事のはずなんですよね。

新しい市場に行く、収益構造を変える、顧客との関わり方を変える。
何かを「やる」と決めるということは、同時に「やらない」ことを決めるということでもあるかと。

だから、戦略が変わるなら、その戦略を実行する組織もまた、
それに最適な形に組み替わっていくのが自然な流れだと、ぼくは思うんです。

ただ、現実はそうなっていないことが多いんですよね。
戦略は更新された。中計のスライドも刷新された。中計発表会もやった。
でも、組織図は前年のまま。配置されている人も前年のまま。意思決定の経路も前年のまま。

このとき何が起きているか。
戦略が組織に従ってしまっていると思うんです。

「組織は戦略に従う」という古い言葉がありますが、現場で起きているのは、その逆です。
せっかく描いた未来志向の戦略が、過去から続いてきた組織体制に飲み込まれて、
結局これまで通りに執行されていく。これって、かなりもったいないことだと思うんですよね。

▼戦略を落とすのは、組織図だけじゃ足りない

もちろん、多くの組織が何もしていないわけではありません。

役員から部長へ、部長から課長へ、課長から係長へ。
階層を使って、戦略の意図を順番にカスケードさせていく。
これはこれで必要な手続きだと思います。
公式の整合性、つまり「誰が何の目標を持っているか」のラインを揃えるためには、
ヒエラルキーで落とすしかないテーマもあると思います。

ただ、それだけでは届かないものがあるんですよね。

組織って、組織図に書かれている公式の組織だけじゃないと思っているんです。
明文化されない風土や社風、誰と誰が普段話しているか、
何が「うちらしい」とされていて、何が「うちらしくない」とされているか。
こういう非公式の組織が、実は意思決定や行動の多くを左右している。

戦略を本当に動かしたいなら、公式の組織図だけじゃなく、
この非公式の組織にも手を入れないといけない。

でも、ヒエラルキーのカスケードでは、そこには届きにくいと思っているんですよね。

風土を動かすのは、役職ではなくイノベーターだ

ここで少し、事業開発の話をさせてください。
これは事業開発・プロダクト開発の世界では「イノベーター理論」と呼ばれる、わりと有名な考え方なんですが、
新しいプロダクトやサービスが市場に広がっていくとき、
最初に飛びつくのは全体の数パーセントの「イノベーター」と呼ばれる層です。

次に「アーリーアダプター」が動き、
そこから徐々に「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」「ラガード」へと広がっていく。

これ、ぼくは新規事業やプロダクト開発の現場でずっと見てきましたが、
本当にこのケース当てはまるんですよね。

最初の数パーセントが動かないと、何も広がらない。
そして、ぼくが言いたいのは、これは組織変革でも同じだということです。

新しい戦略、新しい働き方、新しい事業のつくり方。
これらが組織の中で広がっていくときも、最初に動くのはイノベーター層です。

役職ではない。等級でもない。「新しいことに反応する感度を持っている人たち」です。

風土が変わる起点は、いつもここにある。
役職でカスケードして変わるのは、あくまで形式の部分が中心だと思っています。

 

▼部長が、必ずしもイノベーターではないという話

ここが、たぶん一番痛い話になります。

組織変革を担うリーダーを選ぶとき、多くの会社は役職で選びます。
事業部長、本部長、部長クラス。
経験もある、社内の信頼もある、影響力もある。
だから、当然のように変革推進の旗振り役を任せる。

でも、ちょっと立ち止まって考えたいんですよね。

その人たちは、今の組織を作ってきた人たちでもあるんです。
今の風土も、今のやり方も、今の意思決定パターンも、その人たちが長年かけて育ててきたもの。

そういう人にとって、変革とは何かというと、自分が積み上げてきたものを自分で壊す行為に近いのではないかと。
これは能力の問題でも、意欲の問題でもなく、構造的な問題です。

むしろ自然な感情として、レイトマジョリティやラガードの側に回りやすいとも言えると思います。
それは責められる話ではないと思うんです。人として当たり前の反応です。

ただ、その人たちに「変革の旗を振ってください」と任せた瞬間、
変革は静かに止まってしまう可能性は大いにあるかと。

表向きは推進しているように見える。会議も開かれる。資料も出てくる。
でも、決定的なところで、過去のやり方に引き戻される判断が積み重なっていく。

これ、わりとあるあるなんじゃないかなって思うんですよね。

▼人事は、組織図ではなく”担い手マップ”を持っているか

そこで、問いたいことがあります。
多くの組織では組織図は持っていますよね。等級表も、評価データも、異動履歴も持っているはず。

でも、社内の誰がイノベーターで、誰がアーリーアダプターか、
誰がアーリーマジョリティで、誰がラガードか。

この「変化への態度」のマップは持っていますか?

人材を「優劣」で見るのは、当然整理をされていることだと思うんです。
誰が成果を出していて、誰が伸びていて、誰が課題を抱えているか。

でも、変革期に本当に必要なのは、優劣のマップではなくて、「変化への感度」のマップなんじゃないかなって。

そして、そのマップをもとに、変革の最初の担い手として誰に旗を振ってもらうかを設計する。
これは、人事にしかできない仕事だと思うんです。

人事が、戦略の文脈を理解した上で、誰を最初に動かすかをデザインする。
ここが、変革期の人事の独自価値になるんじゃないかと思っています。

▼最後に:戦略に組織を従わせるという仕事

冒頭の話に戻ります。

戦略は変わったのに、組織はそのまま。
その違和感の正体は、組織を「役職と等級の構造」としてしか見ていないことにあるんじゃないかなって思うんです。

変革期に必要なのは、戦略を組織に飲み込ませることではなく、
戦略から逆算して組織を動かす担い手を選ぶこと。

それは、過去の感性で配置することではなくて、
未来の戦略に対する感度の高い人を、意図的に最初の起点に置くということです。

「変革の担い手を、役職で選んでいませんか?」

戦略が変わったのに組織が動かないとしたら、
たぶん、最初に旗を持たせる人を、役職で選んでしまっているからじゃないかなって感じています。

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