Blog

ブログ

元上司、Xさんのお話

古田 聡
古田 聡
2026.06.01

前職は、採用や育成、組織風土など、人と組織の問題解決に関わる会社に在籍していました。そこではがっつりと営業に明け暮れる日々。対象は今でいう「エンプラ(大企業)」の企業群で、ありがたいことに誰もが知るビッグクライアントを引き継ぎ、担当させていただきました。 正直、それなりに(いや、結構)大変な毎日でしたが、そこで営業としての足腰を徹底的に学ばせていただきました。

しかしあるとき、とあるプロジェクトで大きな失敗をしてしまいます。 クライアントから大クレームとお叱りを受け、結果は出禁。さらには降格、異動となりました。もちろんこれが100%の要因ということではなく、日ごろの行いや結果にマイナス面があったことでしょう。今思えば「あれもこれもすればよかった」と悔やまれることばかりです。ただ、当時は僕にも言い分があり、どうしても100%は納得できない人事評価でした。

異動先で扱うのは、中小企業をターゲットとした月額制のサービス。これを後輩と一緒に販売・展開していく仕事でした。時はリーマンショック真っ只中。月額サービスの会員数がものすごい勢いで減少していく中で、それを食い止め、反転向上させることがメインミッションです。

これまで年間数億円の案件を動かしてきた僕は、それなりの自負がありました。金額の大小ではないと頭では分かっていても、数万円のサービスを販売することに対して、プライドが高かったのでしょう、それはそれはとても複雑な気持ちでした。

これまでは、前々職も含めて「1社1社に最適なサービスを」と心掛けてきた僕のスタイル。しかし、新しい部署で求められたのは、とにかく「数、数、数」。今までの仕事の仕方を根底から変えなければなりませんでした。新規テレアポ、飛び込み営業、ご紹介のお願い営業、セミナーの開催など、新規獲得のために考えられるすべてを行いました。 (あ、そのサービスを非難したり、数を追う営業スタイルを否定しているわけではありません。特に飛び込み営業などは、その後の僕のメンタルをとても強くしてくれたと感謝しています。)

後輩と同行しながら自分の数字も何とかし、研修講師の仕事もしながら、わちゃわちゃと必死に仕事を続けて2年くらい。ようやく社数が右肩上がりになり、少なくとも僕が異動してきた時の水準に戻ってきたときでした。
「もう、やり切った」という思いが腹に落ち、私は退職・独立という道に進むことを決めます。 (独立についてはもっと色々な要因を考えていたので、決してこれだけが契機ではありません。)

当時僕の上司は、年下で管理部門から異動してきたXさんでした。本来なら社内の異動は重大な関心事のはずですが、当時の私は色々な感情が渦巻いていて、全く頭に入っていなかったのでしょう。辞めることを伝えるその時になって初めて、自分の上司がXさんであることをちゃんと認識したほどでした。

Xさんに「辞める」と伝えた後、「ちゃんと話をしよう」と二人で飲みに行くことになりました。 僕の方が年上だし、Xさんも気を遣ってくれているのは分かっていたので、大人の対応できれいに話を着地させよう、と思って席につきました。

しかし、不思議な夜でした。
Xさんはどこか底知れない魅力のある方で、話を重ねるうちに、まるで引き込まれるように、気づけば自分でも驚くほど何でも話してしまっている自分がいたのです。 異動させられた時の悔しさ、ここ数年ずっと耐えてきたこと、泥をすするような複雑な思い……。それらを赤裸々に吐き出す僕の話を、Xさんはただただ、静かに聞いて、うなずいてくれました。 そして最後に、ありがたい評価と温かいねぎらいの言葉をくれたのです。

今振り返れば、あの数年間、僕は誰にも自分の苦しみや弱み、葛藤を打ち明けられずにいました。鎧をまとい、虚勢を張って、張り詰めた糸のような心のまま過ごす毎日でした。ただそれを静かに聞いてもらえるだけで、心がどれほど軽くなったか。尖っていた怒りの感情も、あの夜、お酒と一緒にスーッと消えていきました。
僕にとっては、暗闇から救い出されたような瞬間でした。


少し前、風の噂でXさんがご結婚されたと聞きました。 きっと、色々なことがおありだったことと思います。外野にはわからないご苦労も、多々あったことでしょう。本当は直接お会いしてお祝い申し上げたかったのですが、それも叶わないので、この場を借りてあの時の感謝と共に。

Xさん、あの時は本当に、本当にありがとうございました。 年上の、しかも扱いにくかったはずの僕に対して、あそこまで真っ直ぐに向き合ってくれたこと。口には出せなかったけれど、実は、言葉にできないほど感謝しているんです。

ご結婚、本当におめでとうございます。 お二人のこれからの日々に、溢れるほどの幸せがありますように。
そして、ビジネスの海を渡っていくXさんのこれからの歩みを、陰ながら全力で応援しています。

Contact

お気軽にお問い合わせください

まずは相談する