▼研修は、なぜか「実施した日」がゴールになっている
研修の準備って、本当に時間がかかりますよね。
対象者を決めて、狙いを定めて、コンテンツを設計して、
講師とすり合わせて、会場や日程を押さえて、当日の運営を整える。
早いところだと、半年以上前から準備が動いています。
関係者みんなが、その「実施日」に向けて全力を注ぎ込む。
で、当日が来て、無事に終わる。
アンケートを集計して、
「今回は満足度も高かったですね」「大きなトラブルもなくてよかったです」
と振り返って、解散する。
ぼく、この瞬間に、いつも少し引っかかるんですよね。
だって、研修が終わったその瞬間から、
関係者の関心が、すーっと引いていくのが分かるんです。
あれだけ準備に力を注いでいたのに、実施が終わると、
まるで仕事が一区切りついたかのように、みんなの視線が次の案件に移っていく。
実施日が、ゴールになっている。
でも、ぼくはずっと、ここが逆なんじゃないかと思っているんです。
▼事業開発の世界に、「完成」という瞬間はないんですよね
ここで、先月に続き、少し事業開発・プロダクト開発の話をさせてください。
プロダクトをつくる仕事をしていると、「リリース」という大きな山場があります。
何ヶ月もかけて開発して、ようやく世に出す日。それはそれは大変だし、達成感もある。
でも、この世界で働く人なら、誰でも知っていることがあるんです。
リリースは、ゴールじゃない。むしろ、スタートなんですよね。
なぜなら、リリースして初めて、ユーザーが本当はどう使うのかが分かるからです。
作っているときは「きっとこう使ってくれるはず」と想像するしかない。
でも、世に出した瞬間に、想像と現実のズレがどっと見えてくる。
「えっ、そこでつまずくの?」
「その機能、全然使われてないじゃん」
「想定してなかった使い方されてる」。
だから、プロダクトの世界では、リリースしてからが本番なんです。
出して、反応を見て、磨いて、また出す。これを延々と繰り返す。
「リリースして終わり」なんていうプロダクトは、一つもありません。
前回、研修を「機能で発注するか、課題で発注するか」という話を書きましたが、
今日はその続きで、「研修を、つくって終わりにしていないか」という話をしたいと思います。
▼研修こそ、終わってからしか分からないことだらけなんです
ここが、今日一番書きたいところです。
研修って、実はプロダクト以上に、
「リリースしてからしか分からないこと」だらけなんですよね。
考えてみてください。
研修の本当の結果は、研修中には、絶対に分からないんです。
受講者が、翌週の会議で実際に発言を変えたか。
来月の意思決定の場面で、研修で学んだ枠組みを本当に使ったか。
部下への接し方が、半年後に変わっているか。
これ、全部、現場に戻ってからしか起きないことなんですよね。
研修会場の中では、何ひとつ観測できない。
なのに、ぼくらは何を見て研修の良し悪しを判断しているかというと、
研修が終わった直後の、アンケートなんです。
これって、プロダクトでいえば、
リリース当日に「使ってみた第一印象どうでした?」とだけ聞いて、
その後ユーザーが実際にどう使ったかは一切見ない、というのと同じなんですよね。
一番大事なデータが生まれるのは、その後の現場なのに、その場所を見ていない。
研修の「本番」のデータは、実施日のあとに、現場で生まれている。
でも、ぼくらの関心は、実施日で切れてしまっている。
ここに、大きなもったいなさがあると思うんです。
▼なぜ、”作り込み”には全力で、”磨き込み”には力を使わないのか
ここは、誰かが悪いという話ではなくて、構造の話として書きたいんです。
研修には、「実施日」という、とても分かりやすいゴールがあります。
日付が決まっていて、その日に向けて準備が進む。
だから、エネルギーが自然とそこに集中する。
そして、その日を越えると、達成感とともに、関心がふっと切れる。
これは、人間の自然な反応だと思うんです。
一方、プロダクトには、そういう分かりやすい「終わりの日」がないんですよね。
リリースはあるけど、それで終わりじゃないことを、みんな最初から知っている。
だから、磨き続けるのが当たり前になる。
つまり、研修が「作り込み」に偏って「磨き込み」に力を使わないのは、
関係者が怠けているからじゃなくて、
「実施日というゴールが、はっきり見えすぎている」からだと思うんです。
ゴールが見えると、人はそこを終わりだと錯覚する。
これは発注者も、ぼくら研修会社も、同じ構造に乗っているんですよね。
正直に言うと、ぼくら研修会社こそ、
「実施して納品、はい完了」にしてしまいがちな張本人かもしれない。
ここは、自分への戒めも込めて書いています。
▼磨くために、何を「見るか」を、先に決めておく
じゃあ、どうすればいいのか。
ここで「フォローアップ研修を足しましょう」という話にはしたくないんです。
それは、また新しい「実施日」を一つ増やすだけで、構造は変わらない。足し算では解けない。
ぼくが大事だと思っているのは、
「リリースした後、現場の何を見るか」を、リリースする前に決めておくことです。
プロダクトの世界では、
リリース前に「この機能がうまくいったかどうかは、何の数字を見れば分かるか」を、
必ず先に仕込みます。
出してから慌てて測るんじゃなくて、測る準備をしてからリリースする。
研修も、同じことができると思うんですよね。
たとえば、こういうことを、実施前に決めておく。
・研修後、現場の「どの場面」を見れば、学んだことが使われたと分かるのか
・それは、誰が、いつ、何を見れば観測できるのか
・受講者の「感想」ではなく、現場の「行動」のどこに変化が出れば成功なのか
営業研修なら、翌月の商談で、提案の組み立て方が実際に変わっているか。
マネジャー研修なら、次の1on1で、部下への問いの質が変わっているか。
そういう「見る場所」を、実施前に具体的に決めておくんです。
そして、これは一度見て終わりじゃない。
何度か見て、効いていない部分があれば、研修そのものを更新していく。
以前、「育成は毎年の整え直しで強くなる」という話を書きましたが、
あれもまさに、リリース後に磨き続けるという発想の、一年単位版なんですよね。
満足度の話を書いたときにも触れましたが、
アンケートは「リリース当日の感想」にすぎないんです。
本当に見たいのは、その後、現場で使われたかどうか。
順番を間違えないことが、すごく大事だと思っています。
▼最後に
研修の準備に全力を注ぐのは、素晴らしいことです。
そこは、ぼくも一切否定しません。
ただ、その全力を、実施日で終わらせてしまうのは、本当にもったいない。
だって、研修の「本番」は、その後の現場で起きているんですから。
いい研修ほど、終わった瞬間から、本当の勝負が始まるんですよね。
受講者が現場に戻って、学んだことを使うか、使わないか。
そこを見届けて、磨いていく。そこまでが、ぼくは研修だと思っています。
皆さんに共有したい合言葉をひとつ。
「それ、リリースして、終わりにしていませんか」
つくって終わりじゃなくて、つくってからが本番。
プロダクトも、研修も、たぶんそこは同じなんですよね。

